彼女をベッドにおろしてから、2~30分ほどで意識を取り戻したようだが、そこから言葉を交わすのにはさらにそのくらいの時間がかかった
「どうして来たの?」
『どうして…かぁ…』
どうして僕は彼女の家へ来たのだろうか、と言われれば 頼まれたから としか言えなかった
死にたいという気持ちも尊重するべきなのではないだろうか、第三者が止めたところで、彼女にとっては苦しい日々が続くだけなのではないだろうか
もしも、僕が本人から直接これから死ぬと言われたら僕は止めたのだろうか
などと考えながらここまで向かってきた
『俺はどうして来たんだろうね、俺が止めたところで君が死にたいことに代わりはないし、君の死にたい気持ちは俺にはどうにもできないのに』
「じゃあ来なければよかったじゃん」
『そうだよな』
『ごめんね』
「じゃあもう帰ってよ」
『そういう訳にも行かないんだ』
「どうして」
『ウチの娘に頼まれたから』
「駒津さんは関係無いじゃん」
『きみは娘が自殺しようとしたら止めるだろ』
「うん」
『そういうことだよ』
「わからない」
それから一服して、小一時間程包丁を巡って組み合いになり、落ち着いた頃にまた今辛いことの話を聞いて、そうしていると過呼吸になったので、背中をさすりながら掛かり付けの病院へ連絡した
病院へ電話をしている内に彼女はそのまま眠ったので、二時間ほど見守ってからバイトへ向かった
後日、お礼として彼女から煙草を1カートン貰った
人助けはしてみるものだな、なんて思う反面、彼女はこれからも生きている限り辛い時間を過ごしていくのだろうな と思うと これで本当に良かったのかと疑問が残っている