夏の昼、子供達の面倒を見ていた。
小学2、3年生くらいの男の子が唐突に
「ねぇ先生、僕、早く大人になりたいな」と言った。
その言葉を聞いて初めて、もう自分はこの言葉を《聞く側》になったのだと気がついた。
その子の何気ない一言で、僕の中で様々なものが溢れだした。
『いったいどうして大人になりたいんだい?』
僕はどうして大人になりたかったんだろう、
小学生の頃、父の仕事が誇らしいものだと思って憧れがあった。ビールはそんなに美味しいのかなあと気になった、喧嘩をしても10分後にはまた一緒に遊んでいた。
「だってお父さんお母さんとおなじになれるじゃん、お酒も飲んでみたいし!」
こんな歳から酒に興味があるとはやりおる。
中学生の頃、歳をとっていくのが怖くて、未来が不安で、しかし何より幸せだった。
『ふふふ、確かにお酒はとても美味しいよ』
『でもね』
『例えば大人になったらもうここで遊べなくなってしまうよ』
『今しかできない事をしてから大人になっても、遅くないと思うよ』
なんて珍しく格好いい台詞を吐いた。
きっと、あの子はもう今ごろは僕が何を言ったかなんて覚えていないだろう。
僕だって先生に何を言われたか覚えていない。でもここで遊んでいた日々はとても楽しいものだった事は覚えている。
随分良い場所で働かせてもらっているなあと改めて思った。
しかし、彼の名前は何だっただろうか、来年にはまた忘れられているだろう覚えないといけないな。